国際交流プログラム「Pacific Rim Online Program」を通じた理数科教育と海外連携(さいたま市立大宮北高等学校)

世界から関心が寄せられる日本の理数科教育

日本の理数科教育には、アジアやアフリカをはじめとする多くの国から関心が寄せられています。令和7年8月に開催されたTICAD9では、EDU-Portブースを訪れた各国の関係者から「日本の理数科教育の取組について学びたい」という声が多く聞かれました。

こうした国際的な注目を踏まえ、今回は、文部科学省が指定する「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の中でも、海外連携において先進的な実践を有するさいたま市立大宮北高等学校(以下、大宮北高校)の取組をご紹介します。特に、同校がアジアやアメリカの学校と合同で実施しているPacific Rim Online Program(PROP25)や、海外校の受入れを中心とした海外連携の実践についてお伝えします。

大宮北高校

SSHとは:先端的な理数科教育を牽引する枠組み

SSHは、平成14年度にスタートした文部科学省による指定事業で、先進的な理数系教育を実施する高校を対象としています。指定校は、大学や研究機関と連携しながらカリキュラム開発や課題研究の深化に取り組み、将来の科学技術系人材の育成を目指しています。

現在、全国で約230校がSSHに指定されており、国内外の学校と連携した探究活動の推進など、多様な取組が展開されています。

大宮北高校:SSH × ユネスコスクール

大宮北高校はSSHに加えて、ユネスコスクールの加盟校として活動し、国際的な視点を取り入れた教育活動に積極的に取り組んでいます。ユネスコスクールは、ユネスコ憲章の理念に基づき、平和、国際理解、持続可能な開発のための教育(ESD)などを推進する国際的な学校ネットワークで、世界180か国・約10,000校以上が参加しています。

同校では、SSH及びユネスコスクールの理念も踏まえ、理数科教育の充実、グローバル人材の育成、ICTを活用したアクティブラーニングの三つを重視した教育を行っています。同校では3年間をとおして課題研究に取り組む「STEAMS TIME」という科目を設けています。生徒は、1年生からSociety 5.0*や人工知能(AI)活用について学習します。テクノロジーを活用して社会課題の解決をめざす探究活動の中で、課題の設定から研究方法の選択、成果発表に至るまで、生徒が主体的に研究を進める点が大きな特徴です。

さらに、同校は海外の学校の訪問を積極的に受入れています。令和7年9月には、SEAMEO-Japan ESD Award優勝校のPasay City National Science High School(フィリピン)の生徒及び教職員の訪問を受入れ、STEAMS TIMEや化学の授業の様子を紹介しました。

文化とテクノロジーについて

Pacific Rim Online Program(PROP25):オンラインで広がる海外連携

大宮北高校が主催する国際交流プログラム「Pacific Rim Online Program(PROP)」は、今年で5年目を迎えました。もともとコロナ禍で海外との交流が制限される中、教員同士のネットワークにより台湾の高校とオンライン交流を始めたことがきっかけで始まった活動で、その後はハワイや国内の学校も加わり規模が拡大してきました。

令和7年11月21日に開催されたPROP25には、日本から3校、海外(台湾、グアム、ハワイ)から4校が参加し、100名を超える高校生がオンライン上で一堂に会しました。

発表グループは視聴覚室から参加

▼ PROP25の概要

PROP25では、生徒3人で1チームを構成、大阪・関西万博のテーマを踏まえた「Saving Lives」「Empowering Lives」「Connecting Lives」の三つのサブテーマに関連する課題を設定して解決策を考案、PROP当日に発表・他校からの参加者と意見交換を行いました。
– (事前)上記のサブテーマに沿って自分の国や地域の課題を設定
– (事前)自国の文化とテクノロジーを組み合わせた解決策を考案
– (当日)オンライン会議システムのブレイクアウトルーム機能を使い、1ルーム約15人に分かれ、発表・意見交換
発表の様子
例えば大宮北高校のあるグループは、「Saving Lives: Mental Illness from Loneliness and Stress」と題し、日本文化と深く関わりのある「禅」や「茶室」にVR技術を組み合わせて、孤独やストレスといった現代社会の課題にアプローチするメンタルヘルス対策を提案しました。また、この提案のSDGs3「すべての人に健康と福祉を」等への貢献可能性についても発表しました。
SDGsへの貢献
プログラム全体を通じて、英語が得意な生徒が発表を苦手とする生徒をサポートするといった生徒の主体的な姿勢が随所に見られました。質疑応答の時間には、発表内容に留まらず、他校の学校生活について尋ねるなど、積極的にコミュニケーションをとる様子も確認されました。さらに、質問が出にくい場面では、オンライン会議システムのリアクションボタン(「いいね」や拍手)の活用を呼び掛けるなど、生徒自身がファシリテーターとして主体的に行動する姿も見られました。
参加生徒からは、「当たり前だと思っていた自国の文化を見直す貴重な機会になった」という声が聞かれました。
助け合う生徒たち

運営面の工夫:拡大する海外連携に対応した教員を支える仕組み

PROP25開催に向けては、実際の参加校以上の多くの学校に声がけを行っています。これまでは、一人の教員が連絡・調整を一手に担っていたため、学校全体で準備状況や他校との調整状況、さらに担当教員の業務量を把握することが容易ではありませんでした。こうした課題に対し、大宮北高校では、共通メールアドレス(SSH関連)を活用することで、複数の教員間で他校や外部機関からの連絡内容を共有し、業務を見える化する工夫を行っています。これらの工夫は、教員間での役割分担を促進し、業務負担の偏りを軽減する体制づくりに繋がっています。
精力的に活動されるカヤ先生(英語科、左)、
稲月先生(化学科、右)

今後の展望:さらに広がる海外連携

大宮北高校は、PROP25に参加した国・地域以外にも、インドやネパールの高校との交流を続けています。今後も国内外の交流校を増やしていく予定です。同校には、海外から多くの訪問依頼も寄せられています。PROPを担当するカヤ先生は「いただいた依頼には基本的にYesと言い続けること」「一度きりではなく、継続した交流となるよう相手校にも働きかけること」を大切にしているそうです。先生方のこうした積極的な姿勢が、大宮北高校の海外連携の広がりと持続性を支える原動力になっています。

さいたま市立大宮北高校お問い合わせ先:
ウェブサイト:https://www.ohmiyakita-h.ed.jp/
SSH推進部・国際交流委員会:okhs-ssh-gp@oks.city-saitama.ed.jp

*Society 5.0:AI,ビッグデータ,Internet of Things(IoT),ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられ,社会の在り方そのものが「非連続的」と言えるほど劇的に変わることを示唆する社会の姿
参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201901/detail/1422160.htm

このページの先頭へ戻る