経済産業省「未来の教室」海外実証事業から 「ICT教育ゼロからの実践と進度・深度拡大及び成果創出への取組」 -株式会社すららネットの取組-

このたび、経済産業省の『未来の教室』実証事業参加企業の取組をEDU-Portニッポンのホームページで紹介させていただくこととなりました。今回は株式会社すららネット様にご寄稿いただきました。
今でこそ児童生徒に1人1台の端末は当たり前ですが、同社では平成31年、ICT環境が全く整っていない状況下で「未来の教室」実証事業の取組を開始しました。ICT教材「すらら」の活用進度・深度を拡大し、学習成果の創出まで視野に入れてこられた同社のこれまでの取組を是非ご覧ください。
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当社は、「教育に変革を、子どもたちに生きる力を。」を企業理念とし、AIを活用した個別最適化を実現する対話式 ICT 教材「すらら」を中心とした教材の開発、提供をしています。国内では2,500校以上の全国の公立学校、私立中高、大手塾等で、42万人を超える児童生徒に利用されています。

今でこそ、コロナがきっかけとなり、政府のGIGAスクール構想により児童生徒に1人1台の端末が整備され、デジタル教材の利用は当たり前の環境となりました。しかしほんの5年ほど前までは、そのような環境ではなく、ゼロからの立ち上げを余儀なくされている状況でした。当社では、そのような時代から経済産業省の「未来の教室」実証事業の採択を受け、2019年より毎年、ICT教材の活用実践に取り組んでいます。端末もデジタル教材もゼロの状態から活用進度・深度を拡大し、かつ学習成果の創出までを視野に入れてきました。

2019年:地方のスタンダード校を実証フィールドに、ICT教育ゼロからの出発

「未来の教室」実証事業に初めて採択された2019年は、ICT環境の全く整っていない地方の標準的な高校を実践フィールドに、ICT教材「すらら」を活用した主要3科目での個別最適学習の実現に取り組みました。「すらら」は基礎学力の習得と定着の支援を担い、教科学習の効果・効率の向上を目指しました。「すらら」には、一人でもゼロから理解できるレクチャー機能と、AIを搭載したドリルやテスト機能があります。これらにより生徒一人ひとりの理解度に合った学習を可能にします。「すらら」を授業で利用することで、授業内容が「早すぎる」「難しすぎる」「簡単すぎる」等、異なる理解度・学習スピードを持つ⽣徒⼀⼈ひとりにあわせた授業が展開できます。また、教員は生徒の学習進度を管理画面で確認できます。生徒に学習ログに基づいた声掛けをすることで、生徒の変化や努力を「承認」できるとともに、適切な学習箇所の提供が可能となるため、生徒の学習意欲の向上にもつながります。実証事業開始前の生徒たちの授業態度と、実証事業開始後の授業態度の変化を見ると一目瞭然です。さらにテストスコアも20P以上向上したことが確認でき、学習成果にもつながることがわかりました。

ICT教材の導入で個別最適化された学習の実現で、授業への取り組み姿勢が前向きに変化

2020年:複数学年・複数学校への展開と学習意欲向上のための活用

2年目の実証事業では、実施学年・学校を拡げ、ICT教材での効率的な学習によって約2割速い速度で成果につながることが確認できました。また学習成果に加え、授業についての評価アンケートでは「昨年度の授業以上に“わかった”と思うことが増えた」「科目に対する興味の度合いが深まった」の回答が100%となり、「学んでいくうちに意欲が高まった」「授業を受けるにつれ興味が上がった」など学習意欲や興味・関心に対してもポジティブな回答を生徒から得られました。さらに「自己肯定力」や「協調性」、「主体性」も実証事業前後で評価値が向上しました。

授業内で生徒同士がコミュニケーションを取りながら進める風景がよく見られるように

2021年:進路を検討する探究学習と個別最適化学習の連携への挑戦

3年目は、地元について学び、理解を深める様々な活動を通じて、地元の魅力や歴史などについての知識を深めるという実証校が独自で設定している探究学習(進路の検討)と、個別最適化学習とが効果的に接続する学びに取り組みました。まず探究学習の過程で行う企業訪問に向け、業種別に必要とされる関連スキルにつながる科目の内容と、それに対応する「すらら」の学習単元を整理しました。そして生徒が学習したいと思った時にすぐ学べるように「すらら」上の設定も調整し、科目の内容と実社会との接続を生徒が意識できるよう支援しました。この取り組みでは、生徒が希望進路と学習する教科の関連性を感じ、学習意欲の向上が認められました。また9割を超える生徒が自主学習に取り組んでいることもわかりました。

単にICT教材で学習させるだけでなく、ICT教材と連携させた仕掛けの構築とそれによる生徒や教員、ひいては学校の変化の可能性も視野に入れることができる実証となりました。

2022年:日々の学習ログと他データの連携の仕組み作りと成果創出

4年目は、自治体が独自で運用するプラットフォームへ、「すらら」による日々の学習データと紙で行う定期考査の結果データを集約し、そのデータを用いた生徒への声掛けや指導方法の変化を検証しました。定期考査の設問ごとに「すらら」の学習単元と紐づけしておくことで、定期考査で間違えた箇所の再学習を課題として配信することが可能になりました。また、日々の「すらら」学習やテストや定期考査など様々な異なる学習データを1つの画面で管理できるため、効率良く生徒情報を得ることができ、データに基づいた生徒指導も可能になっています。

定期考査の後の課題配信では、生徒一人ひとりで異なる弱点の克服に寄与することができました。生徒と教員のコミュニケーションツールを用意し活用することで、学習意欲の向上につながるケースも確認できました。さらに学習への不安感を解消し、自信を持つ生徒の増加傾向も認められました。

【実証事業の全体像】

まとめ

当社はICT教材「すらら」の有用性や独自性による個別最適化学習の実現だけでなく、より効果的な学びにつながる仕掛け作り、児童生徒だけでなく教員の意欲向上にもつながる運用法の開発・提案を行っています。時代の変化と共に課題も変化していきます。日本のEdTech企業の先駆けとして、当社が有している様々なデータやノウハウを活用しながら、教育現場に寄り添い、かつ一歩先を行く教育課題解決への取組を行っていきたいと思います。

 

■著者プロフィール

林 俊信(HAYASHI Toshinobu)
株式会社すららネット 執行役員/マーケティンググループ 学校チーム部門長

大学卒業後、大手人材サービス企業に就職。求人広告・人材紹介等の営業マネージャー、ディヴィジョンマネージャーを務めた後、「社会で活躍する人材の育成には、社会人前の教育が重要」と考え、2015年に株式会社すららネット入社。入社後は学校向けのソリューションチームの関西担当、マネージャーを歴任後、2021 年より現職。

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