ハノイ国家大学へのロボット教育プログラム導入―カリキュラムなど教育コンテンツの提供、教員研修支援―(2018年度公認プロジェクト:学校法人千葉工業大学)

1. プロジェクトの背景や今までの活動紹介

発端

ベトナムでは、ロボティクス分野の強化が喫緊の課題であるとの認識のもと、2017年にハノイ国家大学(当時はベトナム国家大学ハノイ校)工科大学(以下、VNU-UET)が同国初のロボット学科を開設することになり、VNU-UET大学幹部から本学に対し協力要請があった。これは、本学の未来ロボティクス学科のカリキュラムには、「習うより慣れろ」を合言葉とし、通常の理論ファーストではなく、実践的な演習科目を履修する過程で理論の重要性を理解させるという特色があるからである。実際の活動は、本学の未来ロボット技術研究センター(fuRo)が実施し、未来ロボティクス学科の協力のもとで進めていくこととなった。

準備

ベトナムにはロボット学科というものが存在しなかったため、学科設立・運営に関するノウハウの全てについて本学の経験を活用して準備が進められた。ロボット工学に必要な技術分野とそれを担う学科教員の振り分けについて説明すると共に、4年間を通してのカリキュラム、実験や演習科目に関する資料、学科所属の工作室に関する器具備品のリスト、図書館におけるロボット関連書籍等の、準備すべきすべての事項に関しドラフトを作成した。カリキュラムは、全4学年分の科目名のリストのみならず、それぞれの科目の内容も、本学の未来ロボ学科のものを基に作成した。演習科目については、講義内容と具体的な器具備品のリストまでを、学生が使う工作室の備品についても工作機械等のリスト(型番を含む)を全て作成し、図書館に揃えるロボット関連の書籍では3000冊を超える書籍のリストを作成して、VNU-UETに共有した。これらの教材およびリストに基づいて、VNU-UETが学科の開設および運営を円滑に進められるように、以下の活動をもとに支援した。

活動(2018年度)

  • VNU-UET若手教員3名を招聘し、初年度配置科目の内容・実施法、ロボット製作の実習指導法などと共にロボット技術の基本を指導
  • 2018年9月にロボットプログラムが開始。新入生60名が本学の未来ロボティクス学科をベースにしたカリキュラムで学び始めた。
  • 本学教員による短期集中講義(50分授業24コマ)「ロボット微分積分学」を実施
  • 本学教員による授業視察およびカリキュラムの運用状況確認を行い、効果的な教育を実施できていることを確認
  • 本事業の認知度を一層高める目的で、大学関係者や高校教員・生徒、企業の採用担当者等を対象に、「ロボット教育と研究」をテーマとしたワークショップを開催
  • fuRo研究員が現地入りしてのロボット開発指導

 

2. 2019年度の活動の具体例と成果

  • ベトナム人教員を招聘(2019年7月)
    昨年度に続き若手教員2名を招聘した。ロボット基本技術に加え、特に2年次の演習科目教授法を指導した。
  • ロボット学科の立ち上げ
    2019年9月にロボット学科の学科としての運営が開始された。昨年度のロボットプログラムからの60名の学生に60名の新入生が加わり、学生は計120名となった。
  • ワークショップを開催(2019年9月)
    大学関係者や高校教員・生徒、企業の採用担当者、在ベトナム日本大使館関係者等を対象に、本学及びVNU-UETにおけるロボット研究に関するワークショップを開催した。
  • 本学教員2名による短期集中講義(50分授業24コマ)、「数学基礎」および「ロボット機構学」2科目を実施(2019年9月)
  • カリキュラム運用状況の確認(2019年9月)
    本学の教員による現地教員授業の視察、カリキュラム運用状況確認をした。効果的な教育を実施できているとの認識で双方が一致した。
  • 案内ロボットの開発(2019年11月)
    fuRoによる技術指導を通じて現地教員が博物館の案内ロボットを開発し、ベトナム国家首相Nguyen Xuan Phuc氏にお披露目した。これを受けて新学科がベトナム政府に正式に認可された。

 

3. 今後の抱負や他国への展開の可能性等

ロボット学科に1年生から4年生までの全学年が揃う完成年度に、初めての卒業生が出るまでを一区切りと考えている。高学年の授業で必要なロボット研究最前線の知識を先方の教員に準備してもらう必要がある。また日本的理工系教育において大切な卒業研究の導入を計画している。さらにロボット研究の守備範囲の広さゆえ、大学院の創設が次の目標となるであろう。
このプロジェクトのベトナムにおける他大学への展開についてはすでに打診が来ている。また、ロボット学科を新設したVNU-UETの教員及び学生から伝わってくる興奮と感謝の念は本物であり、これからのベトナムにおけるロボット工学の発展を予期させるものである。
千葉工業大学未来ロボティクス学科の教育理念が役立つ教育機関は、各国に存在することは確実である。機会があればさらにこれを他国にも広げていきたい。

微分積分学集中講義終了時の集合写真(2019年1月)fuRo研究員(左端)によるロボット技術指導風景(2019年1月)
数学基礎集中講義時の質問風景(2019年9月)ワークショップ中の学生によるデモ風景(2019年9月)
fuRo指導の元VNU-UETが開発した案内ロボットFUSOお披露目
(中央紫のネクタイの人物がベトナム首相Phuc氏)(2019年11月)
 
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