教員の学びを深める-理論と実践の往還への挑戦 実践研究「福井ラウンドテーブル2021 Summer Sessions 国際セッション」実施報告

国立大学法人福井大学は、2018年度EDU-Portニッポン公認プロジェクト「『福井型教育の日本から世界への展開』アフリカ・中東・日本の教師教育コラボレーション事業」の取組の一環として、2021年 6月19日(土)・20日(日)に実践研究「福井ラウンドテーブル2021 Summer Sessions」を開催しました。今回はコロナ禍の影響を受け、福井大学連合教職大学院での現地参加、及びオンラインにて日本国内、全世界と接続してのハイブリッド形式での実施となりました。数あるセッションのうち、国際セッションでは、マラウイ共和国からの参加者による報告をもとに、授業研究をテーマとした国際的な交流が行われました。

福井ラウンドテーブルがもたらしたマラウイでの教育現場の変化

マラウイの学校現場が変わる?

マラウイでは、Education For Allが実践された結果、就学率は改善されたものの、教員の数・質ともに多くの課題を抱えています。そのような状況下で、2016年11月に本学で実施したJICA課題別研修「授業研究による教育の質的向上」に参加したマラウイの中等学校(日本の高校に相当)数学科教員、および教育科学技術省教師教育局の職員(中等教育数学担当)の2名が、帰国後、教員の勤務校において研修の成果を踏まえた授業研究に取り組み始めました。彼らの取り組みを受けて、2017年2月の福井ラウンドテーブル以降、マラウイからは継続的にラウンドテーブルに招聘し、活動報告をしてもらうことでフォローアップを行っています。併せて、EDU-Portニッポンパイロット事業の取組の一環として、2017年10月から複数回、福井大学メンバーが複数回現地を訪問するなど、よりよい授業研究の実践に向けて活動を行ってきました。彼らは、勤務校で子どもの学びに着目した教育を実践するために授業研究を行っています。最初の渡航時には、「連立方程式を解く」という題材でグループ学習を実施、模造紙を各グループに配り、グループで考える授業を観察しました。それぞれのグループの中で比較的勉強ができる子が、なかなか理解が追い付かない子に教える姿も見られ、子どもたちの間で学び合いの雰囲気が生まれました。教員が一方的に教える授業から、子どもたちが一緒に学び合う授業が導入されたことは画期的です。福井大学の研修に参加した研修員が、その学びを自分事として捉え、帰国後主体的に実践に取り組んだこと、その活動を支えるために本学から実施した継続的なフォローアップが、ダイナミックな変化をもたらしたことを直に見ることができました。

現在は、さらにこの動きを拡大すべく、大学を巻き込んで教員養成、教員研修の中で授業研究の展開を試みています。2019年の同課題別研修に参加したナリクレ教員養成大学の教員、およびナリクレ教員養成大学附属中等学校の教員とともに、授業研究を実施するとともに、2020年にはナリクレ教員養成大学と学術協定を締結、コロナ禍で渡航が難しくなってからは、Zoomを使ってオンラインでのラウンドテーブル参加のほか、週1回、ミーティングしながら協働して授業研究に取り組んでいます。

教員研修で必要な視点-授業を受ける子どもの変化を見逃さない-

子どもたちが主体的に学び合う授業が実践できつつある一方で、教員の授業を省察する能力の育成は簡単ではありません。実践校が近隣の学校教員および教育管区視学官を招き、公開授業を行った際、私達は、授業観察に来た教員達が、生徒の学びの様子を観察せず授業担当者の言動に着目していることに気が付きました。そこで、授業後に参加者同士のグループディスカッションの実施を提案し、子どもたちの学びの変化について話し合いました。話し合いを通じて私達が知ったことは、マラウイの教員は、理念としては「子どもの学びに着目した教育」を実践しようとしているものの、授業の評価方法については教師の言動を観察することが多く、必ずしも生徒の学びに着目していない、ということです。そこで、子どもたちがグループ活動で作成した模造紙を一緒に確認し、子どもたちがどのような解答を書いているか、またなぜそのような理解をしているかについて、参加者同士で話し合う場を設けました。またその議論を通して、参加者が確認した生徒たちの学習の様子、例えば生徒間の学び合いがあったことなどを紹介し、授業の中で見るポイントについても考えを共有しました。

加えて、マラウイでは、現在授業研究は導入されておらず、授業の評価は教育科学技術省の視学局が担当しています。同局が授業評価のチェックリストを作成し、視学官が巡回して評価を行っています。子どもの変化を授業観察に取り入れようとするならば、まずは現在の実践校において子どもの学びの様子を確認する実践を行いながら、しだいに教育管区、またその上の教育科学技術省視学局を巻き込んで全国的に評価の認識を改善する必要があると気がつきました。そのためには、まずは同校において校長を含めた全教員を巻き込んで評価の認識を改善する必要があることから、校長や他教科の教員も一緒に参加してもらうよう、実践の方法を変えていきました。

実践研究「福井ラウンドテーブル2021 Summer Sessions」での成果の発信と新たな学び

2021年 6月19日(土)・20日(日)に福井大学で開催した実践研究「福井ラウンドテーブル2021 Summer Sessions」では、世界各国でのラウンドテーブル実践例の共有や意見交換を行いました。1日目には延べ676名、2日目には延べ319名と大変多くの方が参加してくれました。

国際セッションでは、まず、1日目に、上述の活動に積極的に取り組んでくれたマラウイの教員の代表として、ナリクレ教員養成大学のKondwani Vwalika氏が、ナリクレ教員養成大学の附属中等学校(日本の高等学校に相当)で実施した授業研究の実践状況をオンラインで報告しました。発表では、Zoomにてスライドによる説明のほか、事前に収録・編集した授業風景や、授業を実施した教員およびKondwani氏のインタビューなどを複数のビデオを観察しました。同セッションには、84名が参加し、ウガンダ、マラウイ、南アフリカ、ガーナ、エジプト、サウジアラビア、アフガニスタン、フィリピン、ミャンマー、インド、インドネシアなど多岐にわたる参加者が一同に集いました。また、日本に滞在している留学生(国内他大学を含む)、帰国した本邦留学経験者、JICA過年度研修員など、多種多様な立場からの参加がありました。マラウイでのリアルな授業研究の実践を、日本および世界からの参加者と共有した後で、実践発表を通じて得た知見や、自らの授業研究に関する知識と照らし合わせながら、自国の現状を再考し、今後の展開についての意見交換等が行われました。

フィリピンの参加者からは、「フィリピンでも、授業研究は教員を評価することだと理解されており、自分の授業実践が批判されることへの恐れから授業研究の実施を嫌がる傾向がある。他方、授業研究を実際に行うことを通じて、教科知識が不足していることを認識し、教員になっても学び続けることの重要性に気が付いた」との経験を共有してくれました。南アフリカの参加者からは「教員は既定のカリキュラムを実施することで精いっぱい。新しいことをやるためには、理論を学んだり方法論を構築したりなどの多くの時間がかかるため、導入が嫌がられる。現場の教員が忙しすぎてこうした時間が確保できない中で、どのように導入していけばいいだろうか」という問いが共有されました。その他、コロナ禍の影響を受けた各国での授業の実施方法について、インターネットが発達していない国でのテレビを活用した方法などを共有し合うグループもありました。それぞれの国での取組を共有した上で、各国ともに「コロナ禍のもとで子どもたちの学びへの興味をいかに喚起するか」という本質的なテーマで試行錯誤している点が共通している、と話しました。マラウイでの授業実践をきっかけとして、各国の教育現場では境遇は違えど共通の課題を抱えていることに、お互いが気づかされました。

 

写真(左上から順に)
①Zoomでのプレゼンテーション(右上に発表者)
②授業の様子について解説1 
③授業の様子について解説2
④授業での生徒の様子
⑤実践授業での教員の様子
⑥終了後インタビュー(助言者)
⑦終了後インタビュー(授業担当者)

 

2日目のラウンドテーブルは、教師の実践経験を持ち寄り、少人数のグループで語り合い、聞き取る場として毎年行われています。国際関係の参加者も5つのグループに分かれ、主に県内の学校で外国語指導助手(ALT)として働きながら連合教職大学院に所属する院生と、福井大学附属義務教育学校に所属している教職教員研修留学生が発表者となり、交流を行いました。

福井ラウンドテーブルの魅力

「多忙な教員が、より効果的に授業研究を進めるにはどうすればよいか」「子どもたちの力をより伸ばすために必要な授業とは何か」というのは、世界共通の問題です。また世界的にコンテンツベースからコンピテンシーベースに教育手法が変化する中では、どの国も試行錯誤する段階にあるといえます。それぞれの参加者は、異なる教育システムのもとで直面する課題と向き合っていますが、共感できる内容も多くみられました。

参加者の中には「正解」が得られると思って参加する方もいますが、主催者である私達も、明確な答えは持ち合わせていません。教育は「正しい答え」が即座に導き出せないものであればこそ、参加者それぞれの経験について、悩みや困難なども率直に共有して話し合い、学んだことを自分なりに解釈して自国で実践し、その成果を次のラウンドテーブルに持ち寄れば、また新しい発見がある…という、まさに「理論と実践の往還」を体現していることが、福井ラウンドテーブルの魅力だと考えます。また、自分の取組についての経験や成果をじっくり聞いてくれる場があることは、次の実践の活力になります。教員が授業を「真似る」だけでなく、他者の経験や考えを糧に、自ら考え、省察し、次の実践に繋げることが、教育の質の向上に繋がっていくものと考えています。

福井大学では、今後も、この実践研究「福井ラウンドテーブル」の取組を続けてまいります。

 

※次回ラウンドテーブルセッションは、2022年2月(2022年2月19日(土)~20日(日)予定、開催形式については検討中)の予定です。詳細が決定いたしましたら、以下本学HPにてお知らせ致しますので、ご関心をお寄せ頂きましたら、ぜひご参加についてご検討ください。

https://www.fu-edu.net/

ご参考:

福井大学News Letter No.149(2021年6月19日発行)

 

 

 

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