カンボジアで「自走」を始めた学校保健室体制及び健診データ管理システム(令和3年度調査研究事業:国立大学法人香川大学)

国立大学法人香川大学(以下、香川大学)では、令和3~4年度にEDU-Portニッポン調査研究事業として、カンボジアにおいて「香川大学衛生教育および学校保健室体制モデル進展事業」を実施しました。これは、令和2年2月に技術移転を行った学校保健室体制、衛生教育、学校保健テキストのカンボジア国内での定着を促進するとともに、学校保健データ管理システムの整備と学校保健教育研究者の育成を目指す事業です。

この事業では令和3年度に、カンボジアの学校健康診断及び児童の身体測定データを一元管理することを目的とした「カンボジア学校健診データ管理システム」のアプリケーションを作成しました。令和4年9月にはプノンペン市内の小学校で学校保健データ管理システム活用のための研修を実施し、アプリケーションの試運転を開始しました。また、令和4年12月には、カンボジア教育青年スポーツ省学校保健局のユン・クンテリアス副局長と当該事業担当者スオン・ピレープ氏の2名が日本において視察を行いました。

両氏の帰国後、同省による「自走」が始まった、本事業の活動を報告します。

①クンテリアス副局長とスオン氏は日本において行政と学校による学校保健データの管理方法を学び、学校保健局長の指導の下、国内での指導を行っています。また、同省はカンボジアで学校保健政策を継続実施できるよう人材育成計画を策定しました。この計画に基づき、学校健康診断や健康教育が同省主導で進められます。

体重測定身長測定①身長測定②
患者移送訓練BLS訓練(注)

(注)BLSとはBasic Life Supportの略称で、心肺停止または呼吸停止に対する一次救命処置のこと。

②同省職員が学校保健室備品の整備点検と保健室担当教員への実技指導を実施しています。

保健室の備品のベッド保険担当教員によるけがの手当て救急箱の準備(氷のう)

③職員が各州のモデル校を訪問し、国の基準に沿った保健室の設置・運営を指導しています。学校によっては保健室に使用できる空き部屋がないところもあり、そうした場合は職員室や図書室の中に「保健エリア」を設置します。


2017年に学校保健研修で来日したチェイキム・ソテアヴィ学校保健局長(前列左から4人目)とスオン氏がコンポンチャム県フンセン・クチャウ高校での研修に参加した様子


同校での指導に参加したクンテアリス副局長

④同省では自走に向けた準備を進め、スオン氏は香川大学工学部の学校健診データ管理システム開発者による助言と実習を受けて、現地でシステムへのデータ入力トレーニングを行いました。同省はスオン氏をシステム管理者に任命しました。香川大学は同省にシステムの利用許可証を提供して、現地での複製と領布を可能にしました。

EDU-Portニッポン事業で開発した学校健診データ管理システムへの入力指導を行うスオン氏

以下のグラフは、システムに入力されたプノンペン市内の王宮付近にある小学校の健診データです。この小学校は教育青年スポーツ省が指定した学校保健モデル校ですが、体重過多傾向の児童が約2割を占めています。

次のグラフは首都プノンペンの北東144km、車で3時間かかるクラチェ州の高等学校のデータです。この高校では、3割の生徒に痩せの傾向が見られます。

⑤令和5年11月初旬には、教育青年スポーツ省が8つの州(コンポンチャム州、トゥブンクムム州、プレアヴィヒア州、オダールマンチェイ州、モンドルキリ州、クラティ州、ストゥングトレン州、ラタナキリ州)に児童・生徒の体重・身長・視力を測定する活動を拡大しました。今回は1州につき1校のみ対象校を選定しましたが(4校を選定したコンポンチャム州を除く)、来年はさらに対象校を増やす予定とのことです。

カンボジアではこれまで学校での身体検査が行われておらず、児童・生徒の成長のバロメーターとなる年齢別の体重・身長・視力などの全国平均値を算出できていませんでした。他の地域・学校との比較も出来ないのが現状です。今後は、栄養学習や給食などによる児童の栄養改善にこうしたデータが活用され、カンボジアの健康教育の推進に貢献することが期待されます。

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