コロナ禍における世界の教育ニーズの変化と求められる民間技術

世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、社会・経済活動の様々な分野に大きな影響を及ぼしました。教育分野もその例外ではありません。
独立行政法人国際協力機構(JICA)は、COVID-19が拡大する中で、開発途上国がより安全で強靭な社会や経済を構築するために、日本の民間企業が持つノウハウ、アイディア、技術が役立つと考えました。そこで、昨年度「教育・社会保障分野におけるCOVID-19を受けた発展途上国における民間技術活用可能性に係る情報収集・確認調査」(調査期間:2020年 10 月 29 日~2021 年 4 月 30 日)を実施しました。調査対象国は、世界8か国(ベトナム・インドネシア・インド・フィリピン・ケニア・モロッコ・ブラジル・メキシコ)で、COVID-19の影響を受けた社会における教育分野の課題とニーズ等を調査しました。今回はその結果について、一部をご紹介します。

まず、上記8か国に共通していたことは、いずれの国においても、全国規模の学校閉鎖措置が執られたことです。学校が閉鎖される中で子どもたちの学ぶ機会を確保するため、オンライン教材や、テレビ・ラジオ教材等を用いた遠隔教育が実施されましたが、各国とも新たな課題に直面しました。主なテーマは、「オンライン・遠隔教育の導入」にかかるものと、「学校再開に向けた準備」にかかるものです。
「オンライン・遠隔教育の導入」にかかる重大な課題のひとつは、「デジタル・デバイド(ICT技術の活用可否)による教育格差」です。たとえオンライン授業が配信されたとしても、自宅でインターネットに接続できない、あるいはインターネットに接続可能なパソコンやタブレット、スマートフォン等を持っていなければ、授業を受けることはできません。都市部と農村部の地域格差や、家庭間の経済格差を背景とした教育格差は従来から課題となっていましたが、そこにデジタル・デバイドという新たな懸念材料が加わりました。
例えばインド国では、2019年時点で国民の24%がスマートフォンを所有していますが、パソコンを所有している家庭はわずか11%、インターネット設備を有している家庭はわずか24%となります。5~24歳の子どものいる家庭において、パソコンとインターネット接続の両方を備えている家庭はわずか8%に過ぎません。また農村部と都市部との間にも格差があり、パソコンを有している家庭の割合は、都市部の23.4%に対して、農村部では4.4%のみです。インターネット設備の整備についても、都市部では42%であるのに対し、農村部では15%のみとなっています。このような状況の中、インターネット環境の改善はもちろんのこと、安価で頑強、かつ操作が容易で汎用性の高いデジタルデバイスは各国でニーズが高まっております。

また、「遠隔教育に適した教育方法の不備」も課題として浮き彫りになりました。世界各国で次々と学校閉鎖措置が執られた一方、教員の多くは教育ツールとしてICTを活用した経験に乏しく、関連する講習を受けた経験が少ない、または経験がありませんでした。そのため、オンライン授業の実施や教材の作成に困難を抱える教員が少なくなく、これが教育の質の低下につながっていると指摘されました。また、これまで教室で実施されていた試験に代わり、オンラインで試験を行う場合に、いかに公平性や公正性を確保するかが課題となりました。カンニングなどの不正行為の有無を監視することが困難なため、遠隔でテストや進級試験を行うことの難しさが報告されました。
例えばフィリピン国では、ほとんどの教員はオンラインでの指導経験を有さず、試行錯誤しながら遠隔教育を実施している状況です。教育省が2020年4月に実施した調査によれば、遠隔教育に関する研修の受講経験がある教員は9%でした。2010年以降、教育省は公立学校へのICT機器導入やICT利活用を推進すべく、100万台以上のデスクトップ/ノートパソコン、タブレットを配布する等していましたが、遠隔教育に関する研修が実施されたのは2020年に入ってからであり、教員が遠隔教育をすぐに実施できる状況にあったとは言えません。このような状況を踏まえると、簡素なICT技術やICT活用に係る教員の教育もニーズが高まってくると言えます。

「学校再開に向けた準備」にかかる新たなニーズとして、「感染防止策の徹底」と「中途退学リスクの低減」が挙げられます。COVID-19拡大後の世界では、感染症予防、感染者発生時への備えに対する意識が高まりました。それにより、対面授業と遠隔授業の併用が益々浸透していくと見られますし、保護具・除菌関連グッズを常備する学校が増え、ソーシャルディスタンスの確保は習慣として定着しつつあります。こうした新たなニーズに応える技術やノウハウが求められます。また、学校が長期間閉鎖されたことにより、多くの国で中途退学者数の増加傾向が見られました。ハイリスクの家庭・児童生徒への支援の必要性は、今後益々高まっていくと思われます。
例えば、ベトナム国内には、COVID-19対策に必要な医療用マスク、手指消毒液、医療用手袋、COVID-19検査キット、人工呼吸器等の製造工場があり、日本、アメリカ、ロシアを含む複数国に個人用防護具を供与している状況です。一方で、消毒液の使用頻度が高まる一方で、アルコール消毒液は、刺激が強く、人によっては手荒れ等を引き起こすため、安心して使える手指消毒液等へのニーズが報告されています。

下表は、今回の調査で明らかになった教育分野の課題と求められる民間企業の製品・技術の例となります。各国の詳しい情報については、報告書をご参照下さい。

表 COVID-19の影響による教育分野の課題と求められる製品・技術

参考

「教育・社会保障分野におけるCOVID-19を受けた発展途上国における民間技術活用可能性に係る情報収集・確認調査 報告書」

 

■著者:


JICA民間連携事業部 企業連携第二課
https://www.jica.go.jp/priv_partner/index.html

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