国際支援活動を通じた日本と台湾の教員の協働により得られたもの(令和5年度・7年度応援プロジェクト:市邨学園名古屋経済大学市邨高等学校)

市邨学園名古屋経済大学市邨高校の取組「交流と対話的学びから取り組むSDGs」は令和5年度と7年度にEDU-Portニッポンの応援プロジェクトに採択され、パートナーシップ協定校(国立台湾鳳山商工職業高校・埼玉県立越谷北高校)との間で、ICTを活用した双方向型の対話的な学びを行っています。

EDU-Portニッポン事務局では、市邨高校と台湾・鳳山商工高校の3名の教員に、取組の中で生徒たちがどのように変化したか、各校の教員は国際的な協働を通じて何を学び合ったかなど、この取組の意義と成果についてインタビューを行いました。

■取組の概要

パートナーシップ協定校の3校は合同で国際的な難民問題や貧困問題等について学び、企業や専門家、地域の人たちの協力を得て、カンボジアとヨルダンでそうした問題に直面する人たちのウェルビーイングの実現に向けた支援に取り組んでいます。

カンボジアでは貧困地域にブランコ、手洗い場等を寄贈しています。資金は生徒たちが行うチャリティー活動の売上を活用しています。また、JICAカンボジア事務所とオンラインでつないだ学習会を行い、生徒が現地の声を直接聞くことができる「リアルな学び」を実現しました。

ヨルダンでも、ファーストリテイリング(ユニクロ)とUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)による参加型の学習プログラム「服のチカラ」プロジェクトの一環となる出前授業、UNRWAパレスチナ難民キャンプ(国連UNRWA)内の学校への備品寄贈の他、難民女性の働く現場を訪問した教員やNGOの職員とオンラインでつないだ学習会・文化交流会を行っています。また、シリア・パレスチナ難民の女性を支援しているTribalogy社と連携して、難民女性が作った手工芸品を学校行事でチャリティー販売しています。

  • 高校生によるSDGsグローバル対談 〜トゥールスレン虐殺資料館 中継学習会〜
  • 3校をオンラインでつないだ「服のチカラ」プロジェクトの学習会を伝える新聞記事(*文中の「広島県の尾道高」は「尾道商業高」の誤りです)
  • カンボジア虐殺のオンライン学習会を伝える新聞記事

■日本と台湾の協働のきっかけ

令和5年、市邨高校は越谷北高校、台湾鳳山商工高校とパートナーシップ協定を結び、それ以降3校で協力して国際支援活動を進めています。当時を振り返り、鳳山商工高校の許智堯先生は次のように語りました。
「市邨高校とは以前から、ユネスコ平和プロジェクトで協働しており、その中でESD(Education for Sustainable Development/持続可能な開発のための教育)の魅力を知り、日本の教育の特長である『主体的で対話的で深い学び』を推進する同校・松野至先生の人柄と行動力に深く感銘を受けていました。両校の教員・生徒の間には信頼と友情の絆が築かれていたので、松野先生から『パートナーシップ協定校としてさらに活動を推進して行こう』と言われた際には、自然な流れで受け入れることができました。教育の究極の目標は、公正でより平和な社会の実現だと思っています。」

■活動を通じた生徒たちの変化

支援活動を行う中で生じた生徒の意識や行動の変化について許先生は、「活動を通して、生徒が自ら調べ、考え、英語や日本語で発信する姿が多く見られるようになりました。自分の言葉で他者とつながり、理解し合える喜びを感じている様子が印象的でした」と語り、こうした変化が「自分にも社会に貢献できる力がある」と生徒自身が実感するきっかけとなり、学びへの自信にもつながったと認識しています。

同じ点について市邨高校の山口哲也先生は、「自分たちが難民や貧困など世界の状況を広く世間に知ってもらうために活動していることを生徒は自覚しており、後輩もそれを受け継いでいます。活動の中で、支援する側とされる側が対等な立場を維持し、伴走・並走することの大切さを学んでいるようです」と述べています。

  • (台湾)鳳山商工高校でのチャリティー活動①
  • (台湾)鳳山商工高校でのチャリティー活動②
  • (台湾)シリア・パレスチナ難民女性支援の応援幕作成
  • (台湾)日本・台湾合同で制作・完成した応援幕

■協働の課題と成果

パートナーシップ開始前、鳳山商工高校ではデジタル社会の中で生徒同士の人間関係が希薄化し、社会課題への関心も薄くなっているという課題がありました。日本の高校と国際支援に取り組む中で同世代の仲間と意見を交わし、共に行動する機会を得たことで、徐々に生徒たちの社会への関心や協働意識が高まりました。許先生は「ICTを積極的に活用し、学びを実際の行動につなげることで課題を少しずつ克服し、ESDも推進できている」と感じています。

協定の締結を呼び掛けた市邨高校には、協定校の生徒たちがカンボジアの歴史的背景やヨルダンの難民問題についてどこまでの知識や理解を得ているだろうか、という問題意識がまずありました。そして、どうすれば自分事としてとらえられるか、という課題についても検討していました。そこで同校では、各校で生徒が世界の現状と問題に触れる機会を増やすためニュースや歴史ドキュメンタリー番組を視聴したり、企業や国際機関、NPO・NGOなどで実際に支援活動に取り組んでいる人からオンラインで話を聞いたりする機会を設けました。生徒たちはこうした活動を繰り返す中で学びを深化させていきました。


(カンボジア)高校生によるSDGsグローバル対談 〜トゥールスレン虐殺資料館中継学習会〜 台湾と日本とカンボジアをつなぐ学習会 YouTube LIVE配信

■活動を通じた教員の学び合い

国内外の学校との協働は、生徒のみならず教員にも多くの気付きや変化をもたらしました。台湾の教員は日本の教員の探究的な授業デザインや、生徒の主体性を尊重する姿勢から多くを学び、生徒が自ら問いを立て、考え、発信できるような授業づくりをより意識するようになりました。日本の教員は、持続可能な国際支援のプロジェクトを遂行するためには生徒だけではなく、教員の間でも日頃から自由に話し合える機会と関係性を維持していくことの重要性を深く感じるようになりました。生徒たちの協働を指導する中で、教員も国際的な共創の魅力を実感しています。

  • (台湾)鳳山商工高校での会議の様子
    市邨高校・松野教諭(左)鳳山商工高校・許教諭(中央)同・林教諭(右)
  • (日本)ユネスコ裏千家茶道体験文化学習会(上)、名古屋市教育委員会での合同国際支援報告会(下)の様子

鳳山商工高校の許先生は活動を通して、教員の意識が「教える立場」から「共に学び、成長する立場」に変わったと感じています。また、教育の中で国際理解と共感を育てることの大切さを改めて実感しているそうです。許先生らの支援活動は校内で徐々に知られるようになり、物資の募集や古着の回収、難民女性が作った手工芸品の購入、さらにはカンボジアの学校支援を目的としたバザーなどに、教職員が積極的・主体的に参加するようになり、学校全体の連帯感も高まったといいます。

市邨高校では生徒をメンバーとするユネスコ委員会に加えて、教員をメンバーとするユネスコ平和教育推進部という新たな組織が設置され、国際支援活動の目的が生徒たちの平和意識の醸成であることが校内で広く認知されつつあります。当初は社会科の教員と一部の学年の生徒活動でしたが、組織の新設によって学校全体の取組となり、多くの教員が活動目的を理解して、協力するようになりました。

■活動を通して教員が得たもの

許先生は「教育とは単なる知識の伝達ではなく、人と人とのつながりを育む営みであることを改めて感じました。生徒たちが自信を持ち、他者への思いやりを行動で示す姿を見ることが、私自身の教育者としての原動力になっています。協定校の先生方と平和への思いを共有し、互いの経験を語り合う時間こそが、私にとって最も価値ある学びのひとときです」と協定校との取組で得られたものについて語りました。そして、同じように支援活動に取り組もうとしている先生方に、以下のようなメッセージを送りました。

「国際支援活動は、最初は難しく感じるかもしれませんが、小さな一歩から始めることが大切です。他者の現実や異文化に目を向け、共感し、考え、語り合い、そして行動する中で、生徒の中に眠っている優しさや可能性が自然と引き出されていきます。 その一歩が、未来をより良くしていくための確かな一歩につながると信じています。」

市邨高校・山口先生は、同じ「地球市民」として言語の壁を超える生徒たちのモチベーションの強さを目の当たりにして、彼らからチャレンジすることの大切さを学んだと言います。また、取組を通じて他教科の教員との関わりを持つことで視野が広がったとも感じています。山口先生もこれから取組を始めたいと考えている他校の先生方に以下のメッセージを寄せています。

「ICT機器の発達で、以前よりも言語の壁は低くなっています。まずは何気ないことからでも交流を始めることをお勧めします。令和3年、異文化理解のために台湾との交流を始めたところ、生徒同士の問題意識はすぐに社会情勢に移り、コロナ禍で苦しむ貧困地域を自分たちでなんとか支援できないかという議論へと続きました。私たち教員がすべきなのは生徒を信じて、彼らに考えてもらう場を設定することだと思います。一緒に支援活動をするパートナー校になっていただけると嬉しく思います。」

  • (台湾)合同国際支援報告会とスクールビジット
  • (ヨルダン)2025国連UNRWA学習会・交流会
  • (カンボジア)貧困地域の公立小学校の子供たちとのオンライン交流
  • パレスチナの現状に関する学習会の様子を伝える新聞記事
    (2025年6月30日中日新聞朝刊掲載)

■国境を越えた教員同士の教育実践の意義

最後に、この取組を中心となって進めてきた市邨高校の松野至先生(同校ユネスコ平和教育推進部主任)に、国境を越えた教員同士の教育実践の意義について話を伺いました。

ユネスコ憲章前文の冒頭には「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない(That since wars begin in the minds of men, it is in the minds of men that the defences of peace must be constructed;)」と書かれています。私たちは台湾及び日本のパートナーシップ協定校と共に「心の中に平和の砦を築く」という理念の実践に取り組んできました。


                      (市邨高校・松野教諭、鳳山商工高校・許教諭作成)

上図のように、日本の学習指導要領と台湾の十二年国民基本教育課程は、ともに「主体的・対話的で深い学び」「探究」「社会参画」「持続可能な社会の担い手の育成」を重視しており、教育目標には高い共通性があります。本事業では、こうした共通基盤を踏まえ、年間指導計画や単元目標を教員同士が共同で設計し、生徒の学びの変容を共有・検証する実践研究型の国際協働を行ってきました。

特に有用だと実感したのは、国際交流を単なるイベントや文化理解にとどめず、教育課程そのものの改善に結びつけて協働し、ともに未来を共創する対話活動です。教員が互いの授業設計・評価方法・生徒理解を共有することで、自校の教育の強みや課題を客観的に捉え直す機会が生まれました。こうした国際協働を通じて、国内だけでは得にくい「教育の相対化」と「質の保証」に寄与する魅力があることを体感しました。

また、本事業では、生徒が国際課題を「知る」段階から、「対話し、考え、行動につなげる」段階へと主体的に移行する学習プロセスを重視しています。その学習設計を支える教員同士の協働は、ESDが掲げる「変容をもたらす学び(Transformative Learning)」を学校現場で実装するための重要な基盤となっています。

さらに、教員間の継続的な対話により、学校単位を越えた実践知の共有とネットワーク形成が進みつつあります。これは、個々の学校の努力に依存するのではなく、地域・国境を越えて教育の質を高め合う持続可能な仕組みづくりへと発展する可能性を持っています。
今後は、本取組で蓄積された教育実践をモデル化し、他校・他地域へ展開可能な形で共有し公正でより平和な社会に貢献することを目指します。国際協働を通じて育まれた教員の専門性、カリキュラム開発力、協働的リーダーシップは、日本の教育の国際的発信力の向上にも寄与するものと考えています。

国境を越えて教員が学び合うことは、生徒の学びの質を高めるだけでなく、教育そのものを社会課題解決に結び付ける力を育てます。世界情勢が厳しさを増す中、ユネスコ憲章の理念を重視した平和教育と、公正でより平和な社会の実現に向けて学習者の変容を促すESDを通して、次世代の持続可能な国際教育モデルの構築に貢献していきます。

  • (カンボジア)台湾と日本からの贈呈〜現地の子どもたちと松野教諭〜
  • (ヨルダン)UNRWA難民キャンプ内学校〜現地の子どもたちと松野教諭〜
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