日本とカンボジアをつなぐ獣医学教育―実践を通じた人材育成と教育基盤の構築―(令和7年度応援プロジェクト:サニー動物病院)

1.カンボジアの獣医学教育が抱える課題

近年、カンボジアでは経済成長に伴い犬や猫を飼育する家庭が増え、小動物医療へのニーズが高まっています。一方で、小動物臨床を体系的に学ぶ機会はまだ限られており、実践的な診療技術を学べる環境は十分とは言えません。

こうした課題を受け、サニー動物病院では「EDU-Portニッポン応援プロジェクト」として、日本の獣医学教育の知見を生かして現地に継続的な教育基盤を築き、人材育成の成果が地域全体へ波及していくことを目標として実施しました。取組はプロジェクトが終了した現在でも継続しています。

2.実践を通じた人材育成

本プロジェクトでは、日々の診療現場に日本人獣医師や愛玩動物看護師などのスタッフが常駐し、地域の開業獣医師を対象とした日常のOJTを中心に、オンラインレクチャーや勉強会を定期的に行い、実践と理論の双方から学べる教育プログラムを展開しました。

OJTでは、診療や手術を通して技術指導を日常的に行い、現場で即戦力となる人材育成を進めました。現地に常駐する日本人スタッフは、日本での経験を活かし、日々の診療を通じてカンボジア人獣医スタッフの成長に大きく貢献しました。オンラインレクチャーでは、日本の各専門分野に秀でた獣医師が講師となり、現地では学ぶ機会が限られる専門知識について継続的な講義を実施しました。

また、勉強会では、日本から渡航した臨床獣医師や愛玩動物看護師が教鞭を執り、大学教員や地域の開業獣医師、獣医学生らを対象に、病院や年齢の枠を超えて定期的に知識を共有する場をつくりました。

これらの取組はプロジェクト期間中だけにとどまらず、地域の獣医療関係者や獣医学生などへ広く教育の機会を提供し続けています。

特に、サニー動物病院での日々のOJTを経て着実に成長したカンボジア人獣医スタッフは、新人スタッフの日常診療の指導のみならず、難解な症例の診断・治療への対応や、アニマルセラピーや動物保護活動などの動物を通した社会貢献活動にも携われるようになってきています。現場で学んだ内容を地域へ還元する良い循環が生まれ始めたことは、本プロジェクトの大きな成果の一つです。

今後も優れた教育環境を整えていく中で、高度な動物医療技術や専門知識だけでなく、動物福祉・愛護の精神、さらにはプロ意識や倫理観を備えたカンボジア人獣医師を多く社会へ輩出したいと考えています。人としても大きく成長した彼らが次々と羽ばたき、カンボジアにおける獣医療の強固な基礎を築いていってくれることを期待しています。

  • OJTを通した教育
  • 獣医外科医 塚田先生の院内外科レクチャーの様子


米国獣医病理専門医 小笠原先生のオンライン講義

3.相互交流が育む学び

本プロジェクトでは、日本から知識を伝えるだけではなく、日本とカンボジアの双方が学び合う環境づくりにも力を入れました。

カンボジア人獣医スタッフ2名が日本を訪問し、日本各地の専門動物病院を視察しました。帰国後には院内報告会を開催し、得られた知見をスタッフ全体で共有することで、個人の学びを組織全体の学びの機会へと発展させました。

さらに日本の獣医師や獣医学生が、カンボジアを訪問するスタディーツアーも実施しました。日本とは異なる診療環境や教育現場を直接体験することは、日本の獣医師や獣医学生にとっても国際的な視野を広げる貴重な教育機会となったと思います。

参加者からは、「カンボジアの社会や動物医療の現場を肌で体感したことで、日本人獣医師として活躍できる場の存在を知り、将来の選択肢や視野が大きく広がった」という声が聞かれました。

こうした双方向の交流を通じて、教育とは知識を一方的に伝えるものではなく、それぞれの国の課題や背景を理解しながら共に学び合う営みであることを改めて実感しました。

本ツアーは、今後も毎年恒例の取組として中長期的に継続していければと考えています。

  • Vet Surg Tokyo 木村先生病院見学
  • 獣医師・獣医学生カンボジア訪問研修

  • 奈良動物二次診療クリニック 米地先生病院見学

    • 動物眼科専門クリニック 辻田先生病院見学
    • ノア動物病院 山本先生病院見学

    4.動物検査センターの設立

    本プロジェクトでは、サニー動物病院での日々の診療業務と人材育成に並行して、血液学検査や生化学検査などに対応する各種検査機器を備えた、カンボジア初となる「動物検査センター」の設立に取り組みました。多くの方々のご協力により2025年6月に無事設立を果たし、その設立セレモニーには在カンボジア日本国特命全権大使やカンボジア農林水産省からもご列席いただきました。

    現在では、当院での診療に必要な検査に加え、カンボジア国内の地域動物病院からも臨床検査を受託し、同国の獣医療の質の向上に貢献しています。

    今後は地域の個人の動物病院では実施が難しい精密検査と、その診断を通して、より一層高度な動物診療の下支えとなれるよう努めていきたいと考えています。

    また蓄積された臨床データや検査データを教育や研究へ活用し、将来的にはカンボジア国内の病態分布の解明や、公衆衛生分野へ「ワンヘルス(One Health) 」(注)の観点からも貢献できる環境を整えていきたいです。
    (注:人・動物・環境の健康を一体的に捉え、医療・獣医療・環境分野が連携して持続可能な社会の実現を目指す国際的なアプローチ)

    「診療」「検査」「研究」「教育」の4つが強く結び付くことで、持続的な人材育成と教育基盤の構築につながることを目指しています。


    動物検査センター開所式

    5.今後の展望と目標:獣医療を通して日本とカンボジアの架け橋となる

    カンボジアでの獣医診療や教育活動には一筋縄ではいかないことも多く、想像していたことの斜め上をいくような出来事や、日本での「当たり前」が通じずに苦労する場面も多々あります。しかし、現地の人々と共に同じように汗を流しながら、「自他共栄」の精神を大切にして病院やプロジェクトの運営を続けています。

    搾取的な支援でも、一方的な押し付けでも、単に高価な機材を買い与えることでもなく、専門的な技術や知識を伝え、共に汗を流しながら「人を育てていく」こと――それこそが、私が目指す国際協力を通じた人材育成の姿であると信じています。こうした地道な教育活動と人材育成の積み重ねこそが、獣医療を通じたカンボジアの発展への真の貢献になると信じて疑いません。

    カンボジア現地にいると、日本人がいかに愛され、海外での活躍を強く求められているかを肌で実感します。だからこそ「獣医療×国際協力」という原点の理念をこれからも大切にし、海外での活動に想いを抱く各分野の日本人獣医師の先生方や愛玩動物看護師、動物を愛する方々と共に、日本人自身が海外で活躍できる場を積極的に創出し、「日本人チーム」が一丸となって多方面からカンボジアの獣医療人材の育成と獣医療の発展、そして動物を通して国際貢献や両国の友好関係に寄与する礎や場所を築いていけたら、これほど楽しくワクワクすることはありません。

    今後は、現地大学との連携強化や「教育病院構想」なども視野に入れ、カンボジア国内で人材育成が自立的に進む仕組みづくりを目指していきます。またサニー動物病院を基盤として、さまざまなカンボジアの抱える動物に関連する社会課題に、日本人とカンボジア人の動物医療の専門家チームとして取り組んでいきたいと考えています。

    サニー動物病院 院長 千村友輝


    獣医地域レクチャー後の集合写真

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