日本の幼児教育、7つの特徴(国立大学法人お茶の水女子大学 教授 浜野隆)

2019年12月11日

 SDG 4.2 は、「2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする」と目標を掲げ、その具体的な指標も設定した。EFAの25年間、幼児教育が周辺的な存在であり、評価指標も曖昧であったことを考えると、大きな前進と言えよう。
 幼児教育は生涯にわたる発達の基盤であり、日本の教育基本法にも「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なもの」であるとされている。日本の幼児教育は、単なる小学校準備教育ではなく、「人生の準備教育」であるといえよう。
 日本の幼児教育は、次の7つの特徴を持つ。第一は、「子供が内から発する主体的な活動や遊びを重視している」ことである。子供たちの主体性を重んじるため、言語による教育指導ではなく、「環境を通した保育」がとられる。そして第二の特徴は、「生活面での自立を重視し、保育者が子供の遊びと生活を指導すること」である。その過程において子供の自発性を引き出すことに重きがおかれることは言うまでもない。
 第三の特徴は、「認知能力・非認知能力の双方の発達を重視し、その両面を関連したものとして捉えている」ことである。日本の幼児教育では、子供の気持ちの安定が重視され、子供同士の活動を促している。そして、その中に知的な活動も埋め込まれている。日本の幼児教育でとりわけ共感性、集団性、社会性、協調性が重視されることは、海外研究者(J.トビン、C.ルイス、J.ヘンドリーら)によっても指摘されてきた。
 第四の特徴は、「中央政府が保育内容や方法の細部を決めるのではなく、現場の保育者に大きな裁量が与えられている」ということである。保育者が好き勝手に保育をするということではなく、保育計画、実施、記録、省察を通じてまた次の計画につなげている。
第五の特徴は、「幼児教育の現場に近い(あるいは現場経験のある)人が、行政においてしばしば指導的な立場となっていること」である。そして第六は、「幼児教育の研究と実践が深く結びついている」ことである、教員養成校の教授陣の中には現場経験を有する者が多く、心理学など多方面の学問成果を取り入れ、実践への橋渡しをしている。
 最後に、第七の特徴として、「民間部門の活力」があげられる。日本の幼稚園は私立が多く、また、民間企業が提供する幼児向け教材や絵本、商品、サービスがきわめて豊富である。さらに、民間の幼児教育産業(通信教育や習い事教室など)が広く普及しており、国内のみならず海外でも多様なニーズにこたえている。
 さて、日本の幼児教育の特徴をざっと上げてみたが、日本の幼児教育とて、数々の「輸入」を通して形成されてきたものにすぎない。日本の幼児教育の先駆者も、海外の「強み」に学び、それを日本の文脈に合わせて改良してきたのである。本稿で上げた7つの特徴は、あくまでも「特質」にすぎない。これらの「特質」が、海外から見て高く評価されれば、それは「強み」と言えよう。「強み」は海外からのニーズを生み、海外展開の基盤を形成するであろう。そのためには、私たち日本人も、幼児教育の質向上に日々努めるとともに、それを発信する努力をしなければならない。

(参考文献)
Ochanomizu University(2006) The History of Japan's Preschool and Care, Center for Women's Education and Development.

■著者プロフィール
20191211193042-02d80b702db55fe5f33ab3f3461e5c89e5f1e7f1.jpg浜野隆(Takashi Hamano)
お茶の水女子大学基幹研究院・人間科学系 教授/お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科人間発達科学専攻長、研究・教育委員会委員長/文部科学省学力調査データに関する有識者会議委員/日本比較教育学会理事/シャンティ国際ボランティア会理事/東京工業大学工学部助手、武蔵野女子大学現代社会学部講師・助教授、広島大学教育開発国際協力研究センター准教授、お茶の水女子大学グローバル協力センター長などを歴任

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