日本の障害のある子どもの現況と特別支援教育の展開(国立大学法人東京学芸大学特別支援教育・教育臨床サポートセンター 教授 橋本創一)

2020年05月19日

日本における障害児の人数は、身体障害児が7.1万人と知的障害児が22.1万人(18歳未満)、精神障害者が26.9万人(20歳未満)とされる(内閣府、2019)。また、義務教育段階の障害のある児童生徒数は、特別支援学校が7.2万人(0.7%)、特別支援学級が23.6万人(2.4%)、通級による指導が10.9万人(1.1%)とされている(文科省、2018)。一方、文部科学省の調査(2012)で、通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある児童生徒の割合は6.5%程度に上るとされた。特別な場のみで教育する特殊教育から、全ての学級・学校において一人一人の教育的支援ニーズに応じて支援する特別支援教育が2007年にスタートして10年以上が経過した。そのシステムは定着し、質の向上や高次化といったステージへと進んでいる。

1. 多様な学びの場と就学の選択について

インクルーシブ教育を推進するなかで、多くの障害児が通常の学級で学んでいる。その他に、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導、訪問教育といった多様な学びの場が提供されている。高等学校段階でも、特別支援学校高等部での指導に加え、高等学校に特別支援学級を設置することが可能となり、通級による指導も2018年度から開始された。障害のために通学が困難な子どもに対しては、教師を家庭、児童福祉施設や医療機関等に派遣して教育(訪問教育)を行っている。こうした多様な教育の場から、本人・保護者・家族らが、専門家等の意見を聴きながら、教育委員会等と相談して、就学先を選択できるシステムが2013年度に導入された。

2. 個に応じた指導の展開とそれを支える指導・支援計画の充実

我が国のナショナルカリキュラムである学習指導要領等に、個別の指導計画(学校・学級における具体的な支援)と個別の教育支援計画(将来に向けた支援と他機関との連携)を作成することが明記されている。個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に実践するためのツールである。日本では、学びの連続性(在籍学級の指導、特別な場における指導、交流・共同学習、柔軟な教育課程の編成など)、障害特性に応じた指導上の配慮、キャリア教育や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等を充実させてきた。日本の特色として、様々なアセスメント(心理検査、質問紙、実体把握シートなど)の活用があげられる。本人・保護者の要望の聴取、専門家による所見、教師自身が実施する教育ニーズの把握などが盛んに実践されている。

3. 日本の教師の"腕"はハイレベル

我が国の特別支援教育に携わる教員の質は著しく高く、世界的に評価が高い。それは、元来、通常の学級やグループ指導においても共通して言えることだが、指導の展開(発問、傾聴、活動を主導する等)や授業づくり(活動設定、教科書・教材の提供、ICT活用等)の巧みさにある。近年、クラス内のすべての子どもにわかりやすく学びやすい環境づくりやツールの提供などによるユニバーサルデザイン教育が導入されている。同時に、特別支援教育の理念に基づく、その子どもの障害特性などに応じた個別的・専門的な教育支援プログラムの提供がなされている。集団参加と個人活動の両面を支える支援が展開されている。特別支援教育におけるツール活用と指導の技巧性から教師は専門的に実践を展開する。

4. アジアにおける展開

海外からの教育関係者の視察の際に、必ず評価されるのが、子どもやクラスに応じた学習指導案と独自の教材(作成過程も含めて)、詳細な個別の指導記録などである。日本で独自に開発された障害児の発達評価のためのアセスメントツールも、中国、韓国、シンガポール、モンゴル、台湾などで翻訳されて活用されているものが少なくない。例えば、日本版ポーテージ教育プログラム(※)は、タイやインド、モンゴルで活用されている。他にも子どもの障害特性に焦点を当て、集団参加と個人活動の両面を支える教材や指導プログラムがアジア諸国で使用されている。このような日本の丁寧なオーダーメイドによる教育実践は、アセスメント法、授業・教材づくり、指導テクニック、個別の指導計画・記録などを含んだ「教師養成・研修」といったシステムにも強く反映されており、東アジア教員養成国際コンソーシアムなどを通じて、東アジア地域を中心に日本型教師養成・研修モデルが推奨されている。

※一人ひとりの子どもの発達に応じたアプローチをする個別プログラムであり、親・家族が指導の中心となって、主に家庭などの日常生活の中で指導を行う家庭中心プログラムである。応用行動分析の原理を用いて指導の目標や結果を具体的に記録しながら行動目標の達成を目指す。

■ 参考文献

■ 著者プロフィール

橋本創一(Hashimoto Soichi)
東京学芸大学特別支援教育・教育臨床センター 教授。博士(教育学)、公認心理士、学校心理士SV、臨床発達心理士、特別支援教育士SV、ガイダンスカウンセラー。専門は障害児心理学、教育臨床学、臨床心理学。日本発達障害学会理事、日本発達障害支援システム学会常任理事、学校心理士認定運営機構理事などを歴任。
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