トピックセミナー(学校現場におけるSDGs取組)

トピックセミナー(学校現場におけるSDGs取組) ~SDGs×国際 世界とつながる体験~

令和4年9月3日(土)、トピックセミナー(学校現場におけるSDGs取組)をオンラインで開催いたしました。

今回のセミナーでは、日本の教育を海外に紹介する取組が、相手国、日本双方の持続可能な開発目標(SDGs)達成に貢献する可能性に焦点を当てました。   EDU-Portニッポン公募事業の学校現場における4つの取組を紹介し、その後、6名の講師によるパネルディスカッションを実施いたしました。

なお、当日は70名以上の方にご参加いただきました。心よりお礼申し上げます。

プログラム

時間内容講師
13:30~13:35開会あいさつ
-EDU-Portニッポンの紹介
文部科学省 大臣官房国際課 海外協力官
生田目 裕美氏
13:35~13:50日本型教育の海外展開がSDGsに資する可能性東京大学大学院 教育学研究科 教授
北村 友人氏
13:50~14:05NPOとの連携による持続可能な国際交流の展開
~ Web会議システムによるマラウイとの交流を通して ~
山口県周南市教育委員会 学校教育課
松本 悦子氏
光市立浅江中学校(山口県) 校長
吉岡 智昭氏
14:05~14:15緑化木調査と国際交流高田中学・高等学校
伊藤 文貴氏
14:15~14:25EDU-Portで出会った学校との協働実践 国際連携力を高める日本福祉大学付属高等学校
君塚 麿氏
14:25~14:35世界とつなぐラベル教育!!小田原市立報徳小学校(神奈川県)
高橋 優氏
14:35~15:05パネルディスカッション全ご登壇者
ファシリテーター: 東京大学大学院 北村 友人氏
15:05~15:10閉会挨拶

チラシ

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講演資料

こちらからダウンロードできます。

1. 日本型教育の海外展開がSDGsに資する可能性 (東京大学大学院)

2. NPOとの連携による持続可能な国際交流の展開 (山口県周南市教育委員会・光市立浅江中学校)

3. 緑化木調査と国際交流 (高田中学・高等学校)

4. EDU-Portで出会った学校との協働実践 国際連携力を高める (日本福祉大学付属高等学校)

開催報告

■日本型教育の海外展開がSDGsに資する可能性
北村 友人氏 <東京大学大学院 教育学研究科 教授>

日本型教育の特徴や、それを海外に展開することを通じて得られる学び、EDU-Portニッポンの取組がSDGsというグローバルな言説とローカルな実践をつなぐ可能性について、ご講演いただきました。

(概要)
SDGsは世界全体における持続可能な社会の実現を目標としていますが、グローバルな持続可能性は、個々の国や社会といったローカルなレベルにおける持続可能性なしには実現しません。このような背景のもと、持続可能な社会の実現に資する教育とはどのようなものか、各国が模索しています。
国や社会によって、求められる教育のあり方や目的は多様ですが、教育が持続可能な社会の担い手としての「市民」を育成するという重要な役割を担っている点は共通しています。日本型教育の特徴は知・徳・体をバランスよく育むところにありますが、これらの特徴も民主的な社会の担い手となる自立した「市民」を育成するという目標に根差したものです。
では、日本型教育の海外展開にはどのような意義があるのでしょうか。日本型教育の良さや特徴をそれぞれの社会で受けとめていただく、必要な形に適合させて活用いただく際、また、その社会で日本型教育を参照して新しい教育が行われる際に、私達自身も日本の教育のあり方を見つめ直すことができます。
日本の学習指導要領で目指されている「主体的・対話的で深い学び」が育む資質能力は、国際的な場で議論されている持続可能な社会に必要とされる資質能力と親和性が高いと考えられます。日本型教育の良さと課題を相手国、社会に共有し学び合う「知識外交」を通じ、個人と社会のウェルビーイングを実現していくことができます。SDGsというグローバルな言説とローカルな実践をどうつなげていくかを考える際に、EDU-Portニッポンの取組から示唆が得られるのではないでしょうか。

■NPOとの連携による持続可能な国際交流の展開~ Web会議システムによるマラウイとの交流を通して ~
松本 悦子氏 <山口県周南市教育委員会 学校教育課>
吉岡 智昭氏 <光市立浅江中学校 校長>

EDU-Portニッポンのパイロット事業及び調査研究事業を実施している特定非営利活動法人Colorbathとともに、マラウイの学校と交流をされた経験、そしてそれを学校づくりや地域の教育に還元してこられた経験についてご紹介いただきました。

(概要)
周南市立富田中学校(吉岡智昭氏の前任校)では、特定非営利活動法人Colorbathとの出会いを通じ、令和元年度からマラウイの小学校とオンラインで交流活動を行っています。マラウイの小学校からの「より良い学校生活づくりのために生徒が主体となって活動できることはないか」という要望を受け、委員会活動を紹介しました。マラウイ側が特に興味を持ったのが手洗いでした。「手洗いのやり方について詳しく知りたい」との声があり、富田中学校の生徒会が手洗い動画を作成しマラウイに送ったところ、大好評でした。結果的に、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」を推進する活動となりました。
また、地域貢献の一環として行っているアジサイ植栽プロジェクトを紹介した際には、マラウイの子どもたちから「それはどれだけ二酸化炭素(CO2)削減につながるの?」という質問がありました。自分たちの活動を気候変動という別な視点から捉え直す機会になりました。
令和3年度からは、マラウイとの交流を学校のグランドデザインに位置づけ、国際交流担当教員も配置し、生徒会役員だけではなく、より多くの生徒が参加可能な体制を整えました。
周南市教育委員会では、社会全体で子どもたちの学びや育ちを支える仕組みづくりを推進しています。地域資源・人材を活用することで、学校内の教育資源だけでは得ることのできない多様な学びの機会を子どもたちに提供し、学びの質を高めることができると考えています。

 

■緑化木調査と国際交流
伊藤 文貴氏 <高田中学・高等学校>

高田中学・高等学校は、名古屋産業大学とともに、EDU-Portニッポン応援プロジェクトにおいてベトナム版環境学習動画の作成や交流に取り組んでいます。環境学習やその成果を海外の生徒に共有し、学び合う活動についてご紹介いただきました。

(概要)
気候変動に関する国際的な枠組みであるパリ協定が2016年に発効したことを受け、高田中学・高等学校は、名古屋産業大学、地元企業である株式会社赤塚植物園とともに、産学連携の環境学習をスタートしました。二酸化炭素(CO2)濃度測定器を用いて「CO2の見える化」に取り組んでいます。
校舎屋上に設置されたCO2濃度測定器が収集するデータは、同じく環境学習に参加する台湾、ベトナム、インドネシアの学校が測定しているデータと共に、名古屋産業大学の「二酸化炭素濃度常時測定ネットワークシステム」上で公開されています。また、CO2濃度測定器を用い、緑化木のCO2貯蔵能力を測定する調査学習も行っています。生徒たちは、ネットワークシステムでつながる台湾の高校と定期的に、環境学習成果発表会を行い、交流の輪を広げてきました。
従来は地元の小学生や中学生に対して環境学習の講習会を開いてきたのですが、コロナ禍においてはその実施が難しくなりました。そこで、学習活動を動画にし、日本や台湾、ベトナム、世界に発信するという活動を新たに始めました。現在、英語、中国語、ベトナム語の字幕を付けた動画を配信しています。これを見たベトナムの高校生から、ベトナム国内の小中学生に向けた地球温暖化防止の啓発動画を作成したいという声が寄せられました。今後、これを高田高校の生徒とベトナムの高校生の協働的な学びの機会とすることを目指します。さらに、この台湾、ベトナムとの交流を発展させ、CO2貯蔵量が際立って高いマングローブ林の調査・研究につなげることも計画しています。

■EDU-Portで出会った学校との協働実践 国際連携力を高める
君塚 麿氏 <日本福祉大学付属高等学校>

EDU-Portニッポン応援プロジェクトを実施している株式会社内田洋行、日本福祉大学、関西大学等との活動を通じて出会ったカンボジアの学校との交流についてご紹介いただきました。

(概要)
国際交流は英語科の教員が担当するというイメージがありますが、教科横断型の学びが重視される今日、担当教科に関わらず、教員間の協働により生徒に豊かな学びの機会を創出していくことが大切だと考えます。
日本福祉大学付属高等学校では、ICTを活用し、カンボジアの小学校の授業を参観したり、現地教員と日本の高校生が交流したりする取組を行ってきました。また、高校生が教師役となる授業も実施しました。うまく言葉を伝えられない、インターネットの通信速度の状況に左右されるなどの困難に直面し、どうすればこれらの問題を乗り越えられるか、生徒たちが主体的に責任感を持って取り組み、実践する機会となりました。また、生徒たちは、カンボジアの子どもたちに向けて、楽しくてわかりやすい算数学習コンテンツを作る活動にも取り組みました。
カンボジアの小学校との活動が、国際連携力を高める契機となりました。相手との協働を通じて知識を得、それを活用し現実世界に働きかけ、その手ごたえから、自分探しのヒントや勇気を得ることができました。支援者、被支援者の枠を越え、参加の輪を広げていくことで、社会変革者としての当事者意識を高めていくことができると思います。そして、そのことが、すべての人のエンパワメント、普通の暮らしの幸せの実現につながると思います。

■世界とつなぐラベル教育!!
高橋 優氏 <小田原市立報徳小学校>

EDU-Portニッポン応援プロジェクトで活動している株式会社スプリックスがベトナムで展開する教員の情報共有プラットフォーム「フォレスタネット」に参加している高橋氏に、身近なところから取り組めるSDGsの学習として、フェアトレードに関する授業実践をご紹介いただきました。

(概要)
消費者としてどのような商品を選択すれば、途上国における貧困等の解決につながるのか、子どもたち自身が考える授業をワークショップ形式で紹介します。
国内で生産・消費される緑茶とウガンダで生産され日本に届くコーヒーについて、生産者が受け取る金額の違いを比較し、貧困や児童労働といった問題について学習します。その背景には、生産者から消費者に商品が届く間に、中間搾取が行われたり、情報不足により生産者自身が不公平な取引であることに気づけなかったりといった要因があることを子どもたちに伝えます。そして、これらの問題をどうやったら解決できるのかを子どもたちに考えてもらい、答えの1つとして、フェアトレードという取組があることを紹介します。フェアトレード認証商品に印刷されているフェアトレードマークに加え、SDGsの達成につながるような認証マークも併せて紹介します。

各講師による発表の後、パネルディスカッションを行いました。
参加者からの「これらの取組を持続可能な形で進めるためにどんな工夫をしているか?」という質問に対して、各講師からは、学校全体の計画に活動を位置付け、教員が交代しても継続するようにすること、様々な教員が関わってコミュニケーションを重ねること、ハードルを高く設定せず、できるところから始めることが重要である、などの回答がありました。
また、「これらの教育活動の成果をどう評価したらよいか?」という質問に対しては、生徒自身も評価に参加し、そのこと自体も活用してより良い学びを創り出していけるようにしていきたいと考えている、などの回答がありました。

セミナーへの事後アンケートでは、「世界とつながる実践の仕方には色々あることを知りました。(中略)周りの子どもたちが、広い視野で物事を捉え、世界の人と助け合って生きていく感覚を身につけられるように、できることを考えていきたいと思います」「SDGsについて、自分自身の視野が広がったように感じます」といった感想が寄せられました。

EDU-Portニッポンでは、今後も学校現場におけるSDGs取組に注目してまいります。

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