EDU-Portニッポン2.0への提言(東京大学大学院教育学研究科・教授  北村友人)

2021年5月28日

2016年から始まった「日本型教育の海外展開(EDU-Portニッポン)」は、その第一期目である5年間の事業を通して、海外展開に関するモデルの形成を目指して、世界36の国・地域に66のパイロット事業を展開してきました。日本のさまざまなステークホルダーが、これまで教育分野で積み重ねてきた知見や経験を見事に活かして、創意工夫に溢れた事業を実施してこられた様子に、非常に感銘を受けています。私は、本事業のステアリングコミッティならびに幹事会のメンバーとして、これまでの事業展開の様子を見てきましたが、この場をお借りして、関係者の方々に心よりの敬意を表したいと思います。

EDU-Portニッポンは、これまで文部科学省が取り組んだことのない、新しい発想にもとづく事業だと思います。そのため、どのような内容の事業を、いかなる方法で展開していけば良いか、試行的な事業を積み重ね、トライ・アンド・エラーを繰り返すなかで進んできたとも言えるでしょう。このように、極めて挑戦的な事業として始まったEDU-Portニッポンでしたが、この事業に関わる多くの方々のご尽力によって、大きな成果を上げることができたと思います。それは、パイロット事業を展開している各国の関係者から、EDU-Portニッポンに対する評価とさらなる期待の声を、私自身が聞いてきたなかで抱いた感想です。

とはいえ、この事業が、完成したわけでは全くありません。むしろ、ようやく事業の基盤が整備され、これからいよいよ本格的な展開が始まると言って良いでしょう。試行を繰り返した第一期(EDU-Portニッポン1.0)の成果を踏まえて、2021年から始まった第二期(EDU-Portニッポン2.0)では、この事業をいかに飛躍させるか、ということが問われてきます。そこで、第一期の総括を目的として2021年3月9日に開催されたシンポジウム「EDU-Portニッポン2.0に向けて」では、事業関係者ならびに有識者の方々とパネルディスカッションを行い、EDU-Portニッポン2.0への「提言」をまとめました。

この提言では、EDU-Portニッポン2.0を進めていくにあたって、「EDU-Portニッポンは、“Port-Port”であることの再認識」を行ったうえで、「これまでに構築されたプラットフォームの横展開と深化」を目指すことが重要である、ということを強調しています。

「EDU-Portニッポンは、“Port-Port”である」とは、世界各地の港(Port)には人やモノ、そして情報が集まり、それが共有されると共に、新たな価値を付けて発信される、というイメージにもとづく考え方です。すなわち、日本の港を出た「日本型教育」が、世界各地の港に到着し、そこで多くの人に受容されたうえで、新たな価値を見出し、日本の港に戻ってくる、ということを意味します。実は、第一期を展開してきたなかで、EDU-Portニッポンは教育「輸出(export)」を目指して、日本の考えや仕組みを途上国に押し付けようとしているのではないか、という批判の声を聴くことがありました。しかし、EDU-Portの「Port」は「港」を意味しているのであり、日本側と現地側の関係者は、それぞれ対等な立場で協働することが、最も大切な前提条件となっています。

こうした“Port-Port”の関係性を構築することによって、次の3点を目指すことが大切であると考えます。

  1. 日本側と現地側とがお互いに尊重しあい、水平的で双方向の「学び」の機会を創出すること
  2. 日本側も、現地側も、それぞれ日本型教育を展開するなかで自らの教育活動を問い直し、確かな「学び」のプロジェクトを実現していくこと
  3. 現地での実践等で得られた知見を日本に還元したり、海外ネットワークとの連携を通して、国内の教育の国際化や質的向上を図ること

そして、上記の3つのことを実現するためには、「これまでに構築されたプラットフォームの横展開と深化」が欠かせません。これまで、いくつかの事業を除き、EDU-Portニッポン1.0のパイロット事業は、二国間で実施され、参加している関係者も限定的な側面がありました。また、分科会やセミナーを通した関係者間の交流は行ってきましたが、そうした交流を新しいアイデアの創出へと結びつけることができてきたかといえば、必ずしも十分に行われてきたとは言えません。そこで、EDU-Portニッポン2.0では、次のようなことに積極的に取り組んでいくことが必要になると考えます。

  1. 事業者間の知見の共有の促進
  2. 新たな民間企業、大学、国内学校関係者の参画
  3. 日本の学校と現地の学校との往還を通した交流の発展
  4. 現地で形成されたネットワークの維持・連携・活用
  5. 事業実施国と近隣諸国とのネットワーク化
  6. EDU-Portニッポンの知見を、新しい教育のアイデアとして国際発信
  7. EDU-Portニッポンに対する、日本社会における理解の深化と、事業の重要性に関する社会的な合意の形成

近年、国際機関(OECDやユネスコ)が主導しながら、これからの教育のあり方として、個人と社会のウェルビーイングを実現していくために、一人一人の資質・能力を育んでいくことが大切である、という議論が活発に交わされています。国内でも、教育再生実行会議などで、同様の議論が積み重ねられています。そうした議論を通して、知・徳・体をバランスよく育むことを目指してきた「日本型教育」の良さを、いかに活かしていくかを考えることの重要性が指摘されてきました。今回の「提言」を踏まえ、EDU-Portニッポン2.0が飛躍していくなかで、事業を実施する現地の教育現場において、そして、日本の教育現場においても、それぞれ個人と社会のウェルビーイングの実現に資するような教育の実践が積み重ねられていくことを、心から期待しています。

※本稿はあくまで個人の見解に基づくものであり、所属する組織・機関の公式見解ではありません。

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■著者プロフィール
北村友人 (KITAMURA, Yuto)

東京大学大学院教育学研究科・教授

カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は、比較教育学、国際教育開発論。国連教育科学文化機関、名古屋大学、上智大学を経て、現職。東京都教育委員も務める。
主な研究テーマは、(1)途上国における教育政策や教育実践、(2)アジアにおける高等教育の国際化と「知識外交」、(3)「持続可能な開発のための教育(ESD)」を通した市民性の育成。 近著に『SDGs時代の教育』(編著、学文社)

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